大雪が降ったかと思えば、一転して花粉日和。
私の花粉症春シーズンは梅雨入り直前まで続くので、今から気が滅入ります(涙)
買っておいて、読んでおいたままの本が結構溜まってきたので、今回はちょっとその紹介を。
といっても、だいたい将棋関係の本なんですけどw
『りゅうおうのおしごと!』の紹介は6巻だけやっていたのですが、記事を書いた後にも続々と巻数を重ねて、先日最新刊である8巻が発売されております。
そちらは後々書くとして、今回はアニメで取り上げられている最中の5巻について、個人的に気になったところをネタバレ全開で取り上げていきます。
というわけで、アニメのネタバレが怖い方は回れ右してくだされ。
■神童のほとんどは、成長すればただの人になる。
では。
人に戻らなかった神の童は…何になるのか?(P6)
7歳で将棋を覚え、11歳で小学生名人に。
すぐに奨励会入りするや、あっという間に中学生にして四段プロ入り。
19歳で初のタイトルを奪い、25歳で年度七冠を達成。
どこからどう見てもモデルは羽生二冠です。本当にあり(以下略)
作中では単に「名人」と呼ばれるこのお方が、タイトル通算百期を賭けて、今回九頭竜八一竜王の前に立ちはだかる、というのが5巻のメインテーマとなります。
しかし、ホントのことを普通に書くだけでラノベのネタになってしまう、というのがこの男の恐ろしいところ。
アニメやラノベでさえ「引くわー」という偉業を平然とやってのける。
そこに痺れる憧れる、という羽生ファンが多いのも頷けますなあ。
■竜王戦第1局はハワイで
本作ではハワイで行われた竜王戦の第1局。
現実の竜王戦でも、森内竜王(当時)に糸谷七段(当時)が挑んだ竜王戦七番勝負の第1局がハワイで行われており、そのときのネタを大分参考にしていると思われます。
作中でも清滝一門がほぼ総出でハワイまで観戦に訪れておりますが、現実でも関西若手棋士の多くが糸谷七段(当時)の応援としてハワイまで駆けつけておりました。
慣れない土地で戦う中、いつもの仲間が一緒に居る、というのは中々心強かったのではないかと思います。
バブル華やかなりしころは、他棋戦でも海外対局はあったのですが、世知辛い世の中となった今となっては、海外対局があるのはこの竜王戦のみ(しかも隔年)となっております。
将棋の世界的な普及の面からしても、もう少し海外対局を増やしても良いのでは、とは思うのですが、やっぱりお金がねえ…。
■『名人、意表の一手損角換わりを採用!』
さて羽生…もとい、名人が注目の第1局で採用したのは、八一竜王が得意としている一手損角換わり。
相手の得意戦法に乗っかって、相手を叩き潰す。
羽生…もとい、名人が得意とする恐るべき戦術であります。
これで痛い目に遭ったプロ棋士たちは山ほど居るはず。
これやられると、精神的に滅茶苦茶にされちゃうんですよね。
■驚愕の曠野(P70)
一日目が終わって、姉弟子とのデートを楽しんで(るようにしか見えない)、名人が指した封じ手も自分があまりに都合がいいので「これはないな」と捨てた一手を指してきて、よしここで決めてやろうと長考に入った八一竜王。
だがしかし、それこそが、名人の仕掛けた罠であった。
相手が好んで指しそうで、実は自分が有利な局面に誘い込む。
現実の羽生二冠が得意とする指し回しです。
ていうかねえ。
どうしてこんな人が現実に居るんでしょうかねえ。
おかしい、おかしくない?
と言うプロ棋士は、きっと多いはず。
この後、心に傷を負った八一竜王は、続く第2・3局を落とし、星勘定の上でも精神的にも、竜王防衛の崖っぷちに立たされることとなります。
■聖火(P136)
傷心の八一竜王を元気づけようと、彼の部屋に向かう姉弟子。
しかし、精神的に崖っぷちの八一竜王を相手にに為す術なく完敗。
桂香さんの元へ逃げ戻って泣き叫ぶこととなります。
あー姉弟子も桂香さんもかわええんじゃー。
■『八一くんへ。明日は私の対局があります。忙しいと思うけど、見てください』
(P147)
羽生…もとい(またか)名人に心を折られながらも、何とか立て直しを図ろうとする八一竜王。
そんな八一竜王を影で支える桂香さん(と、あいちゃん)
そして桂香さんは、女流三級の資格を賭けて、マイナビ女子オープンの本戦1回戦に挑みます。
自分もググってみて確認してやっと気がついたのですが、アマチュア招待枠のある女流棋戦では、アマチュアが本戦ベスト8入りした場合に、女流三級の資格を得られるんだそうです。
はえー、勉強になりましたわ。
■『報われない努力はない。それを証明するために戦いました』(P167)
さて5巻のクライマックスの一つ、釈迦堂女流名跡vs桂香アマ戦。
どうしても殻を破れず、一度は女流プロ入りを諦めかけた桂香さんが、長年女流棋界を引っ張ってきた釈迦堂女流名跡を相手に、死に物狂いになって戦います。
中盤で一時は挽回不可能と思われた局面を、勝負手の連発でひっくり返しにいく桂香さん。
自分の方が強いとか、絶対に勝てるとか、そういうのじゃなくて。
自分が一番将棋を愛している。
そのことにかけては、誰にも負けたくない。
その情熱が、最後に釈迦堂女流名跡の手を狂わせ、遂に勝利をもぎ取ります。
アニメでは清水女流vs里見女流戦の棋譜を使ったそうですが、いやー熱い展開ですわ。
さて表題の「報われない努力はない」ですが、順位戦での昇級の一番を逃した若き日の井上九段相手に、谷川九段がこの内容で電報を打った、というのが元ネタですね。
電報というのが時代を感じさせますが、このネタをこういう風に料理するとはねえ。
驚きました。脱帽です。
この結末をネット観戦して発奮する八一竜王、というのが本作。
竜王戦での序盤3連敗からの逆襲、というと、初の永世竜王を賭けて争った渡辺-羽生戦があまりにも有名ですが、渡辺竜王(当時)が発奮した理由はと言いますと。
奥様のブログでの一言。
「渡辺くん、諦めたらそこで試合終了だよ(スラムダンクの安西先生風味)」
現実にあったこととはいえ、この手を使うわけにはいかないでしょうね(笑)
■『ごめん』(P222)
さて竜王戦の第4局は、あいちゃんの実家である、日本一の温泉旅館『ひな鶴』で行われます。
あいちゃんの女流棋士のお祝いと、八一竜王との婚約を兼ねて…ってちょっと待て、という展開になりますが、まあそこはラノベゆえ致し方なし。
前夜祭の大騒動に巻き込まれてクタクタになった八一竜王が、翌朝食べた朝粥に付けた説明書きの裏側に書いてあったのがこの一言。
『ひな鶴』の料理長である、あいちゃんのお父さんの作品。
いい人なんだよなあ、この人。
■盤上のファンタジア(P299)
さてこの第4局、驚くべき手順により千日手指し直しとなりますが、その詳細はぜひとも5巻を読んで確かめていただきたいということにしておきます(おい)
その指し直し局も手に汗握る展開となり、両者ほぼ時間を使い切った状態での膠着状態が続きます。
その均衡が崩れたのが、名人が勝利を確実にするためにと、最後に取っておいた2分間を使ったこと。
八一竜王は、その貴重な2分間を逃すことなく、自分の勝ち筋を読み切ります。
これも竜王戦での渡辺-羽生戦の第4局で実際にあったことで、これで奇跡的に勝ちを拾った渡辺竜王が、3連敗後の4連勝で竜王位を防衛し、初の永世竜王に輝くこととなります。
そして本作でも、この第4局を制した八一竜王がその後3連勝を果たし、タイトル防衛に成功することとなりました。
■感想戦
本作の密かな楽しみである感想戦。
月夜女流と供御飯女流との掛け合いが楽しいんですよね。
今回は、供御飯女流の副業である将棋ライターのお仕事のお話。
現実でも、将棋ライターとして活躍されている棋士の方はそれなりにいらっしゃいます。
■あとがき
『りゅうおうのおしごと!』恒例の、重たいあとがき(おい)
「5巻で終わりにしようと思います」の一言は、重い。
その一言に恥じない大作を、よくぞここまでまとめきったと思います。